文章のみの4クルー目の3(本編)
----- 1○.2●.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.エピ.資料 ↑この2つに参加しています 本章> カウントダウン 担当の捜査官) 担当の捜査官は30代だと思われる。 この数年の話をまとめれば以下のようになるが、林太郎さんはそれを話すかどうするか決めかねていた。 はじめは土日祝日の携帯電話のキャリアによる、「ヨドバシ」など大型店への東北6県への携帯電話販売支援を受ける会社をしていた。 携帯電話販売支援を受ける会社を会社組織にして、それと前後して林太郎さんは家を追い出される。 その時期に再開した、リョウさんという同世代の失業者との会話から あるところにかっこうの洞窟になった大正時代の遺構をみつけ、会社の事実上の解体の時期から、そこに住み始める。 そこで協力を得た、フリーマケットで知り合ったタカハシさんと その洞窟を昔から利用していたアツシによる洞窟の環境整備がはじまる。 そこでおこなうのは、知り合いの会計をやっているモトさんの紹介での、成功者間島への新規事業の企画立案だった。 ほどなく、仲間が増えていく。 風俗嬢のリンちゃん。 メイドカフェにいたコハル また、間島という成功者への企画の手伝いに、ヌマさんというマイナス思考のおじさんが加わる。 モトさんから、成功者間島の会社の本体の「アルファ」の会計業務を受ける仕事をいっしょにできないかと打診を請け、アルファの社長花田と会うが、花田はとんでもない金持ちだった。 ところが… ところが、このあたりから事情は一変、間島社長のほうからのお金が止まり、7人の手がけた仕事がそれぞれうまくいかなくなってくるし、 変な恐喝も受ける。 さらに、調べてみると「アルファ」があやしい会社だということが見えてきて、 モトさんと相談をしてお金を間島社長に返すことにする。 すると、数ヵ月後についに「アルファ」が強制捜査を受け、 またまた7人の手がけた仕事が失敗し、 お金が底をつく。 そこで、支えるのが風俗嬢のリンちゃんの日銭だが、その仕組みに林太郎さんは苦悶しつつみんなにカネがなくなったことを打ち明けられない。 仕事をする方向を失いかけ、みんなは洞窟で日々を夏休みのように暮らすようになる。 リンちゃんの客のもってきた古地図からリョウさんがあるものを発見し、それをもとに林太郎さんが走り出し、 活路となるものを見つけ7人が 立ち上がる。 そこで、得たものは…ということなのだ。 ----- 1●.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.エピ.資料 ○○○○京都) 最初に林太郎さんが「アルファ」に呼ばれたのは、2008年1月京都でのセミナー会場だった。 飛行機で税理士のモトさんと林太郎さんは,仙台から大阪空港に向かう。大阪空港から間島社長の待つ大阪のホテルに向かった。 間島社長とコーヒーを飲み、タクシーに乗る。駅に向かい、京都に着いた。 京都東本願寺のそばにある○○婦人会館の大ホールにつく。ロビーにもクロークにひとはすでにいなかった。林太郎さんとモトさんはまずこの会場の地下にある出演者控室に通された。 そこで、モトさんに、そのITで成功したという「アルファ」の社長の花田が「おひさしぶりですー」と甲高い声で挨拶をしてきた。林太郎さんはトイレに行くといい、会場を通り過ぎたが、会場はITの内容とはそぐわない、退職者といった年代の男性が多かったが、800席の会場は満席だった。講演は聞かなくていいからと言われる。 トイレに行った時に、ロビーでチラシを拾う。 --世の中のどんな人にも、同様のチャンスが眠っています。その成功を「掴む」か「掴まない」かは貴方次第です。 なぜ?アルファのカリスマ達は、チャンスを掴み!この短期間に組織を拡大することが出来たのか?真実と信念と一握りの勇気を会場にお越しいただいた皆様に必ず届くことでしょう。-- 名神高速道路を降り、京都南I.Cから約50分山のほうに向かい、○○○○京都 ○○○○についた。14卓46席の大きなロビーラウンジで待たされる。 2時間後、花田らしき5,6人が遠方の廊下を過ぎる。 120m2ほどの、御影石を随所に配してある、リビングダイニングに通される。宿泊もできるように思ったが、ベッドルームは見えなかった。 そこは、モトさんは「アルファ」や関連会社や会員の会計を引き受けると言う話をした。 「アルファ」の社長の花田の話では、前任の会計士が花田を批判し、それを周囲に話し始めたため切りたいということで、先方とも話がついているということだった。前任の会計士をやっていた仕事をモトさんと林太郎さんがあらたに会社つくりそこで受けて処理をしていく、その金額は月額300万円くらいで大丈夫だろうかという話だった。モトさんは「基本的にそれはお受けしたいと思います」と言い、花田の周囲の幹部がいっせいに笑顔で頭をさげ、花田の秘書の女性が妙に丁寧に「本当にありがとうございます」と2,3回言った。 フォーマルなレストラン「リストランテ ○○○○○」に通される。 男性はジャケット着用、女性はフォーマルな服装という条件をうたったところだ。 テーブルは10名の席が用意されていた。 ダークカラーを基調とした重厚な雰囲気の個室。 お食事前のストゥッツィキーノが運ばれる。3種のホワイトアスパラガス料理、花ズッキーニのリゾット詰めフリット、ホタルイカとフルーツトマトの冷製カッペリーニ、ハーブを練りこんだパスタ ミッレフォーリエ、ボタンエビのソテーにボッタルガの香りと続く。 三河産赤座海老と真鯛のグリル、爽やかなグレープフルーツに春の茸を添えて、ほうじ茶のグラニータ 新生姜の香り、特選近江牛ロース肉のタリアータ トリュフと筍のサルサと共にイタリア産特選チーズをお好きなだけと来て、最後の一品 ワゴンデザートで、小菓子、コーヒー又は紅茶となった。 白パンのおかわりが人気で、何人かが白パンをおかわりした。林太郎さんもおかわりをしたかったが、言い出せなかった。 話は、花田の飼っている「ココア」という犬が「アルファ」のビルに放し飼いにされていること。3ケ月前のコンベンションに来たM****というアメリカの有名な女性歌手が泊まったホテルに1000万円もかかったということ。それを現金で払ったということ。M****がホテルからプレゼントされた名入り刺繍のバスタオルを気にいったが、それが紛失し、その作り直しに20万円かかったこと。花田の秘書がホテルのエステに行ってその請求が50万円だったことにおどろいたこと。などだった。 「アルファ」が巨額なお金がからんだ詐欺だと報道されたのは、林太郎さんやモトさんがこの京都訪問から半年経ってからだった。 当初は、FXを売買するソフトをレンタルする事業で成功しているIT会社という話だったのだ。 当時はIT企業の成功者というものがマスコミをにぎわしていた。六本木ヒルズはその象徴だった。 ビルゲイツを筆頭に「IT企業ならば、それもあるかも」という呪文が、戦後まもなくの海洋冒険少年小説、1970年以降の宇宙への探検映画に似て、そこには無限の宝があるように見えていた。 しかし、ネットの世界には、成功していない成功者が「成功した」と嘘をついて笑顔をなげかけている。リアルならば、風呂に入らなければ臭うし、なんとなく所作で嘘がバレることもあるが、ネットでは嘘が推敲をかけられ顔を晒している。こうしたことを林太郎さんが思い知るのは、「アルファ」まきこまれてからのことだった。 間島社長からの説明では「アルファ」は、FXの自動売買ソフトをレンタルしているIT会社ということだった。 「月に18000円でレンタルしており、全国で10万人の会員がこれを使っているので、月に18億の売り上げが上がっているというもの。ただし、このソフトがおこなう具体的なトレードに関するアドバイスが違法にあたるかどうかが現在の法律ではぎりぎりのようだ」と。 そしてソフトの説明にはこうあった。 『アルファソフト』は、実際に成果を出している投資コンサルタントらを開発スタッフに配し、最先端の金融テクノロジーと数理学的アプローチの考え方を元に開発されました。 過去の膨大なデータ分析を元に、キャッシュマネジメントと、最先端の金融リスク管理を取り入れ、投資効率の向上、安全性を追求しつつ極大的なリターン獲得に焦点をあてたソフトとなっています。」 カモたち 選挙にも使えるところが怖い 組織票というのは、既存の他のマルチのタイトル保持者を引き抜くということ。 選挙で言えば、団体の責任者を口説き落とすということ。 (選挙が組織票のぶんどり合戦で、結局「政党」という談合政治である以上、「個人」の意見は通らないというのがタカハシさんの考え) アップはこのようなことを指示する。 要は、あんたらはしゃべらないでとにかく誰か連れて来い、と。あとは自分らが、心理学的なノウハウを駆使してだますから、と。 しろうとがしゃべると、「カモ」はわかった気分になって「来ない」ことになるから、だましてでも連れて来い、と。 結局、次から次と知り合いに宣伝してまわるハメになるが、結局は、「あいつ最近やばくね」「突然電話来たと思ったら、マルチだよ!まいるよあいつ」と、評 判を落としたあげく同窓会に出にくくなっている自分に気付くのは、そのマルチ商法に自分がこけてからの「あとのマツリ」なのだ。 「あんたらはしゃべらないで」というのは、映画の予告編に例えられる。 「感動しました!」とか、映画試写会の出口で撮られた映像の映画PRものだが、つまりマルチ商法はこうした広告のノウハウを駆使してだましにかかってく る。 仙台/洞窟) 洞窟に運んだ大きな机は、東北大学の片平キャンパスに廃棄されていたものだった。 後で説明するタカハシさんと、林太郎さんが前と後ろを持って、洞窟まで運んだ。素材がけやきだったので、異状に重かった。 ほとんどの備品は東北大学のごみ捨て場で揃った。さすがは、国立だけある。机も、無駄に造作の施された立派なもので、板の素材もケヤキとかそういう1枚もので作られたものといったリッパなものばかりだった。 目立たないように夕刻を狙い、日没とともにごみ捨て場から搬出した。 その机を中心に、洞窟の中に事務所が完成した。 初期には、仕事のときにはドアの表に机を運んで仕事をした。まるで、キャンプ場で、夏休みの宿題をやらされている感じだった。 電気はまだ引いていない。パソコンは充電によって使い、明かりは古い灯油を石油ランプに入れてとったが、もともと開口部分があったので、昼間でもそう暗いものではなかった。 洞窟はワインの貯蔵庫のような雰囲気だった。半円形にくりぬかれた窓は、聖堂のようにも見えた。 タカハシさんは、洞窟が1階と地下に2段になっているので、1階の奥のほうでなにか区切られたスペースが数個あったので、そこにひろったものを在庫していった。 火は洞窟の中で起こせたので、そこでお湯をわかしたり、ラーメンなどを作ることができた。 洞窟の中で間島社長への事業企画を練った。 間島の会社) 間島の会社ではISO27001の認定をもらおうとしているらしく、行くたびに訪問のメモを書かされた。住宅街にあるが、10名ほどのひとがいて、パソコンに向かい、まれに電話応対をしていた。 ※ ISO27001、マネジメントとして組織自らのリスクアセスメントを行い、必要なセキュリティレベルを決め、プランを持ち、資源配分を行い、システムを運用する、国際的に整合性のとれた情報セキュリティマネジメントに対する第三者評価制度。 間島社長にはいろいろな提案を出した。林太郎さんに間島社長に仕事を依頼したときには、アルファがマルチ商法の会社であること、「(それはずっと続けられない)マルチですから」と自虐的な言葉とともに、 マルチ商法から間島さんの会社がこの成功を足がかりに本当にECコマースや他の堅実な展開をしたいと、話していた。 林太郎さんは間島社長の会社の企画をするようになった。モトさんの紹介で、利益はモトさんと折半というのが紹介の条件だった。 間島社長の会社は、のちに警察の捜査を「アルファ」と同日に受けることになる。 間島社長の本体の「アルファ」はFX取引のためのソフトを会員にレンタルする事業でなりたっており、その会員は会費として18000円を毎月支払うということだった。そのソフトが評価を受けていたため、会員は10万人が利用しているというのだ。 その会員に対して、商品を販売していて、間島社長はその配送部門を受け持っているということだった。その管理報酬としてか1口500円を受け取っていたので、10万口だとすれば、月に5000万円の入金があるのだが、実際には海外の口座がなんとかとかいうことでなかなか入金されないと言っていた。 間島社長は、会ってみると勢いを感じるひとだった。まだ、30代だと思う。口の周りを1周した、手入れされた、ヒゲをはやしている。林太郎さんは、間島社長と会うたび、(くちびるの両脇の3ミリ幅のひげライン)に感心していた。 いつも、手にしているバッグはルイビトンの市松模様の黒いバックだった。着ているものも、ブランドのものという感じで、「登っているひとというのはこんなものなのか」と感じた。 モトさんに、「間島社長もすごいね」と言うと、「いや、間島さんも、一時期はカツカツだったから、そのときはひどかったですよ。」と言った。 林太郎さん「カツカツ?」 モトさん「家賃が納められなくて、大家からガンガン催促の電話が来てたし、そのときはもうしょぼくれてましたよ」 林太郎さん「そうなの?」 間島の会社は仙台の中心部からはずれた住宅街の中にあった。○○○というキリスト教系の新興宗教の施設だったらしい。大家がその信者で、本体の「アルファ」の社長、花田がその信者という話だった。○○○がひきはらったあとに入ったのが、間島社長の会社だ。なるほど、その気で見ると、大きな部屋は聖堂のていをなしている。 「そのソフトってすごいの?」林太郎さんはモトさんに車のなかで尋ねた。林太郎さんは自転車しか足を持っていなく、間島社長の会社は仙台の中心部から3つ山を越えるので、モトさんの車で送ってもらっていた。 モトさん「いや、ネットでは、『儲からないぞ』とか叩かれているよ」 林太郎さん「でも、すごいね、10万人って」 モトさん「会員を増やす時に、前にやっていたマルチの名簿を使ったらしいよ」 林太郎さん「あー、そうなのかぁ」 林太郎さんは間島社長の着ていたブランド物らしいトレーナーがどこのものかなと思いながら、それを聞いていた。ロゴがわざと稚拙に縫い付けられているものだった。 本体「アルファ」は、年末のコンベンションに向け準備を進めているという話と、●●●の●●というところに老人介護施設を4億円かけて建設しているということだった。 提案は毎月2本程度。ほとんどは、その事業のマーケッティングをした上で、事業計画を数字としてつめていたし、展開に至った際の人脈や取引の会社の選定もついていたので、やる気ならば成功したと思う。しかし、間島社長は明らかに熱が消え、本体のほうの事業に追われるだけで終わっていった。 だから、林太郎さんは声をかけて情報を提供してもらい、林太郎さんの顔で、スタンバっている業者もあったので、ちょっと「悪いな」と思うシーンがなん度かあった。 間島社長からの支払いは遅れることはモトさんから言われていた。本体の事業が海外口座を使うため、なにか複雑らしくお金は絶対にお支払いするのでということで、請求金額はたまっていった。 一方で、「アルファ」の会員(正確には詐欺の被害者)にはこのような説明がされていた。 イスラエルの戦争、年始には北朝鮮の不穏な動きの問題で海外送金が遅れている。その後も、2009年2月に入るとIMFによる海外送金への介入、そして2009年4月北朝鮮のミサイル発射という理由もあった。 詐欺師のねらい目>>> 詐欺師の手口と逃げ>>> 音楽) 洞窟の周りの音。 最初は、鳥の声とかを文字にしていた。 キーキー キッキーキー ピッピピ、ピーピーピー 耳を澄まして楽しんでいた。 音楽を流すとある音での危険察知ができないので、耳をし澄まして生活や仕事をしたが、慣れるにつれ、ラジオから入り、音楽を流すようになった。 レコードプレイヤを1台置いた、75回転のレコードも聞けるやつで(古いレコードの音楽を古い動画にかぶせたら?)と思って、あとで説明するアツシと相談をして、オークションで購入した。 曲は、カーペンターズやレターメンを流していた。 カモフラージュ) 不要な人が来ないように中に浮浪者が住んでいるようにカモフラージュした。出口に靴をおいて、ちょっと覗いても中が見渡せないようにした。 入り口に靴を並べておくと効果はてきめんだったので、よくタカハシさんが靴をゴミから見つけると持ってきて並べていた。 雨の日) 雨の日は 樹木の葉っぱに落ちる雨がパタパタと音を立てた。地面がぬるりとすべる。ポケットに手を突っ込んで歩くと、足をとられたときに危ない。 雨の日は、木からなにかが落ちる。 ばさっとときどき音がするたび、だれかが来たようで怖かった。この突然の音には、慣れない。実際に、ひとが来ることもあったから。 林太郎さんと本屋と耳栓) 林太郎さんは、資料を本屋で立ち読みをした。 立ち読みのスペースをつくっているのは、仙台にはロフトのジュンク堂、イービーンズのジュンク堂、青葉通りのあゆみブックスなどがあるが、 集中するために耳栓をしていた。 最初は本屋さんだけでだったが、そのうち、町を歩く時にも耳栓をするようになった。 <この地区のMAP> 対岸) 対岸はお金持ちの家に見えた。大きな犬がいる芝生か、大きな石灯篭のある日本庭園という感じだった。広瀬川にせり出してきた広い庭は、しっかりとテラスのように整備されている。 電気工具の音、犬の吼える声が聞こえた。 町からは、救急車のサイレンの音、「救急車が通ります、進路を空けてください」のアナウンス、暴走バイクの音、工事の音、遠くでおそらく車の出している音が複合してうすれて1音になった「コおおおおー」という遠く小さな音が 聞こえた。 「ここは出るのか?」) ネットで検索すると、この周辺をいわゆる心霊スポットとして紹介しているホームページもあった。 「ここは出るのか?」というと、わからない。 最初にここに来たのが快晴の日だったこともあり、そのまま、ものを置いて仕事場にしてしまったので、あまり心霊的なことは考えている余裕がなかった。 この洞窟は、愛宕山横穴墓群の中にある。 発掘では鉄の刀、鉄の鏃、須恵器、土師器、ガラス玉が見つかっている。 昭和51年には山の南東斜面付近で道路工事をしていると、突然穴が開き、中から古代人骨が見つかった。 愛宕山横穴墓群は、今も横穴として口を開いているものもあり、土の中から発掘されたものもあるが、調査されないまま破壊されたものもある。 とはいえ、7世紀後半 - 8世紀初頭のものがいまだに心霊現象を抱えているものかということがある。 しかし、梅雨の時期に、林太郎さんが洞窟の奥のほうを見たときに、3番目あたりのシャワー室(のちに、ここはみんなの個室になるのだが)から誰かが出てきた感じがした。 10メートル先の暗闇を高さが70センチの白い煙のように透けた布のようなものが白い大きな犬のように1メートルくらい横切った。 奥は真っ暗だったが、右から左に移動した。だれかがそこに居るのだと感じた。 それだけで、あとはなにもなかった。 そのことは誰にも話さなかったので、そのうちタカハシさんが物置にしてしまっていたので、いったんタカハシさんの荷物はよけてもらいそのスペースは使わないことにした。 林太郎さんの直前> まだ、「洞窟」という場所をみつけていない。 林太郎さんはあとで説明する理由で家を追い出された。 また、あとで説明するある日、自宅に泊めてくれるように奥さんに頼んだが「真摯な態度でいるのなら」というメールに、力が抜けた。実家に行くことにしたが、実家では実家で「帰ったほうがいい」とか「あなたが悪い」といったことを延々と言われるので、ものの1時間で実家を後にした。林太郎さんはどこに泊まればいいのかと思ったが、大き目のダンボールをまちでみつけて、ダンボールで寝てみようと思った。しかし、探すと、ダンボールを設置できる場所は意外にないのだ。ビルの隙間も案外となく、入れない。そして、地下鉄や地下道はすでにベテランの浮浪者が占拠している。 モトさんから電話が来たので、「おやじ狩りがいるから注意したほうがいいよ」ということと、「今の時期なら、花見の公園がいいんじゃない」と教えてくれた。「なるほど、それは名案」と、自転車にダンボールを積んだまま仙台の「西公園」という桜の名所に急いだ。着いてみると、明日のための場所取りに、青いビニールシートに人が寝ている。ところが、ここにいる夜店の自家発電機の音がうるさい。おまけに、そこにいるのは学生などの若者で、それがまたうるさく、とても寝れたものではなかった。そこで、花見のゴミ捨ての場所にダンボールを捨てた。「そうだ、駅だ」。待合室に寝入っている、夜行列車を待つひとたちのかつての映画のシーンが浮かんだ。仙台駅につくと、そこは閉まっていた。「え、駅って、今閉まるんだ」。駅の中では、ポリッシャーかワックスかけのような小型の車がくるくる回って掃除をしている。 「サウナはどうだろう」と、サウナを何件か回ってみたが、2000円以上で、なにしろ、9時までに入っていれば安かったのに、という料金設定が入る気を失わせた。町をくるくる自転車で回り、ネットカフェも調べてみたが、当時はフラット(リクライニングシートのようなものではなく、背筋をまっすぐ伸ばして横になれるスペース)を得るためにはやはり2000円くらい必要だった。1000円では、リクライニングシートなどの「なんとなく、前屈」というようなものなので、休まらないな、とそれを諦めた。そうこうしているうちに、花屋の前で蘭を入れていたダンボールの箱を見つけた。「これは入れる」。そこで、それを持って、自分の関わっているカフェの駐車場にそれを設置した。ちょうど、蘭を見せるための窓が覗き穴として自分の目の前に位置し、いい感じだった。そこで、耳栓をしていざ寝ようとすると、身体は疲れているのに、神経がたかぶっているのか眠れないのだ。ひとの通る足音などに、神経がぴくついている感じなのだ。 しかたなく、30分寝よう寝ようというトライをしたが、ダンボールをそこに置き、24時間営業の飯屋を目指した。ところが、飯屋も冷蔵庫の音や、客のしゃべっている声がうるさく、とても寝れたものではない。結局、深夜の3時に、3時間1000円と案内を出していたカプセルホテルに飛び込んだ。 携帯電話事件> 林太郎さんはあとで話す携帯電話の販売のイベントの会社をしていた。携帯電話上のインターネットを試用してみるために1台を買った。 携帯電話の自動配信システムをテストしていた。 たとえば、自分の名前のところに「自動配信システムTEST」とすれば、そのまま自動配信システムTESTさんにとなるし、「システムのテストなので返信しないで下さい」でも、「システムのテストなので返信しないで下さいさんへ」となる。 本文をめちゃくちゃな精神障害を受けたような意味の取れない文章を書いても、返信は来るのだった。ただし、「仙台の名物をかならず冒頭に1つ書いてください」と書いても、当然「答え無し」で本文がはじまる。「メール読んだヨと」と。 つまりは、業者のコンピュータがいかにバカなのかが知れるのだ。 送ってくる内容も、いかれた文章が多く笑えた。 「真剣なお願いがあります。貴方の精子をください!子供が出来なくて困ってます。」 「絶対迷惑はかけませんので中*出ししてください。一回10万円で、 妊娠できたら50万円お礼として払います。詳しくはすぐに連絡先を教えます。 出来れば本日中に返事をください。」 だそうだ。こんな文章に釣られるバカがいるから、こういう文章が存在するのだろうから、世に中は「馬鹿ですか?」がけっこう多いのかもしれない。 「結婚をして毎日同じ事の繰り返しに不満を感じ始め、刺激を求めています。 最近旦那は、夜も相手にしてくれず、不満だらけの毎日です。」 「自分で言うのもなんですが、ルックスには自信があります。バストは Eカップでセクシー系スタイルです。こんな私ですが、一緒に甘いひと時を 過ごしませんか?」 だそうだ 。 しかし、困ったことにメールが多く届くようになる。この手の宣伝メールは 「真紀子といいます 」とか 「本気でお金に困ってます・・・ パン*ツ生脱ぎで幾らくれますか?ゴムありならHもOkかな(照)」 などというようなタイトルでも、自動で「削除」とならない巧妙なものも多くあった。 今なら、yahooにでも、自分のアドレスを登録してみれば「迷惑メール」のフォルダーに、その手のメールは山のように標本することができる。 巧妙なものは、開かせるまでは嘘をつく。成人式を控えた女性の自宅に「サトウですが、ユカさんいますか」などと、個人名の電話が頻繁に来るような嘘をつく。 「寝ている間に帰っちゃったの?」 「さっきのことだけど」 「怒!おこってます!」 「ちゃんと聞いてほしいんだけど」 というような、あれ?だれから??と思うような文書をタイトルにつけてくる。ネットに通じていれば、「ああ、あれね」なのだが。 しかし、事件は起こった。 林太郎さんの奥さんはネットをまったくしないのだ。 つまり、林太郎さんが風呂にはいっている間に、着信したメールを覗き見た結果、おそるべきことがまちうけていた。 この手のメールが入っていることに、「浮気している」と思い込んだのだ。 現実、50をまもなく迎えようとする、ネット界では「おやじ」と揶揄される年代の男性が、そんな展開になることは「妄想」でしかない。いや、「おやじ」の「夢」「アメリカンドリーム」と言えるかもしれない。その一笑されるわ、一蹴される夢を、世界中、いや宇宙でたったひとり信じてくれるのは…こともあろうに「妻」だった。 携帯電話はさばおりにされた。 仙台の駅前には、この手のメールや出会い系のチャットを受ける会社がある。よく、業務用の出会い系のカードの販売ポスターとともに書類が道に捨てられている。 が、そこには仙台だけでなく、東北、東京の天気と、駅などの待ち合わせのマップのコピーが捨てられている。哀れなネット上のオトコどもは、仙台でそのバイトの子が受けているとも知らずに、ひとによっては青森駅で待ち合わせなどをするのだろう。 もちろん、すっぽかされるのだが。その手のサイトは2,3のメールのあとに有料になる。どんな、いかれた 「じゅげむじゅげむごこうのすりきれ」などというイカレタ文章にも返信は来るのだ、それも山のように。 そして、その山のような返信を読むためにはやがて有料のポイントを購入しないといけない。はなから、はめられているのだ。 「女房妬くほど亭主もてず」の故事があるが、林太郎さんの奥さんは激怒して林太郎さんを家から追い出したのだ。 携帯はまっぷたつにサバオリにされている。言い訳もできず、とりあえず抱えている仕事の入っているノートパソコンを1台持って、仙台の夜の町を自転車で走った。 この手のことを、ネットで、 「自分はこのサイトで某女性に好きになられ」 などと書こうものなら、 「妄想、乙」 「妄想リスペクト」 「アホくさ。キモおやじ。」とたたかれて終わり。 ネットに通じていないひとにはわからない世界だった。 ※ 最近の物語迷惑メールは定型文章をPCが自動配信ソフトを使って1日に3億通も配信しているそうだ。 迷惑メールは悪用(カモリスト自動登録)されてもいるようだ。 送信以外にアドレス自動回収とアドレス自動生成して送るとか。 最近はスパイウェアとして不特定多数のPCに進入して、 プロバイダアドレスを抜き出し回収する極悪のもある。 この日から、同じ趣味のモトさんの家にやっかいになった。 林太郎さんもモトさんも古地図が好きなのだ。モトさんは、林太郎さんと同じく、「かみもの」と呼ばれる、江戸から、戦前戦後までの印刷物や和本などを部屋に押し込めていて管理されていない。管理されていないのは、現実(国会図書館ならいざしらずかもしれないが)、県の図書館でも、市の博物館でも「出てこない資料」や「紛失したかもしれない資料」が実はある。だから、本棚類も整備されていない民間研究者とくくられる「マニア」は、たいていがその「モノ」の隙間に寝ているのが現実だ。 かくして、数ヶ月は、かみものの隙間に2人のオトコが寝ていた。 4月、モトさんが出張で部屋を留守にすることになった。同じものを収集している仲間というのは、互いに信用がおけないというか、なるべくそうした「モノ」の前に自分だけが放置されると困る。「モノ」がなくなったり、見失ったときに言い訳が現実的にはきかない、あるいは、言い訳が通っても「モノ」がみつかるまではしこりが残るのだ。 「紛失」は一番恐れることなのだ。これが、林太郎さんの西公園へのホームレスにつながる。 ジャンル別一覧
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